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静岡地方裁判所浜松支部 昭和35年(ワ)234号 決定 1961年1月30日

原告 竹上貴代治

被告 松井三郎

主文

本件を名古屋地方裁判所に移送する。

理由

原告は「被告は原告に対し金二五万円を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因は、

「一、被告は昭和三二年一〇月一五日訴外荒川[金圭]に対して金額二五万円満期同年一二月一五日支払地振出地ともに名古屋市支払場所株式会社東海銀行浄心支店なる約束手形一通を振出した。

二、右荒川は原告に、原告は訴外芹沢竹次郎に、いずれも本件手形を裏書譲渡し、芹沢は株式会社東海銀行に取立委任裏書をしたので、同銀行はこれを満期に支払のため支払場所に呈示したが支払を拒絶された。そこで、芹沢は右銀行から本件手形の返還を受け、さらに昭和三五年一月一五日これを原告に裏書譲渡した。

三、よつて、本件手形の所持人である原告は振出人である被告に対し約束手形金二五万円の支払を求める。」と云うにある。

そこで考えてみると、被告の住所は冒頭記載のとおり名古屋市内にあり、また原告主張の請求原因事実によれば本件約束手形金請求の義務履行地(期限後の支払請求であるから振出人の住所、営業所)も亦名古屋市になるから、本訴の土地管轄は普通裁判籍によつても、将又特別裁判籍によつても右名古屋市を管轄する裁判所に属するものと云わなければならない。もつとも、被告は第一回口頭弁論期日前に本案に関する事項を記載した答弁書を提出し、しかして右答弁書には管轄違の抗弁の記載はなく、且つこの書面は被告が右期日に出頭しなかつたため陳述したものとみなされたことは記録に照して明らかなところである。そうすると、当裁判所は民事訴訟法第二六条の規定に基き本訴について土地管轄権を有するに至つたかの如く考えられないでもない。しかしながら、同条に云う「本案ニ付弁論ヲ為シ」たとは現実に裁判所に出頭して弁論をした場合を指し、従つて未だ叙上の如き答弁書の擬制陳述に止まる場合には同条の適用はないものと解するのが相当であり、しかして、記録によつて明らかなように被告がその後現実に出頭した第二回口頭弁論期日においては先ず管轄違の抗弁を提出している以上、本件について同条を考慮する余地はないと云うべきである。

以上の次第であるから、民事訴訟法第三〇条第一項の規定により主文のとおり決定する。

(裁判官 中田四郎)

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